大陸の辺境に位置するエトリアという名の小さな街で、大地の下に広がる樹海が見つかった。エトリアの統治機関『執政院』は大陸中に樹海探索の触れを出し、数多くの冒険者を集める事にした。
しかし、幾人の冒険者が集まろうと、樹海の奥深くに潜り富と名誉を手にするものは現れずにいた……。
……誰にも踏破されない樹海はいつしか『世界樹の迷宮』と呼ばれ、冒険者の畏敬の対象と化していった。
人生は計画通りにはいかない。ありふれた言葉だけど、今ほどそれを実感したことはなかったと思う。今日1日、どころか、この数時間に起こった出来事は、ボクの一生涯でも大きな分岐点の中のひとつになるはずだ。……たぶん。
冒険者の街。迷宮の街。富と名誉の眠る街。ここエトリアを形容する言葉は数多いけれど、最も有名な呼名はやはりこの言葉だ。
世界樹の街。
エトリアで大地の下に広がる樹海が見つかってから、もうどれくらいたつのだろう。大地の下に広がる樹海。どこまでも続く深い迷宮。初めて見る生き物たち。未知の世界の探索という言葉は、それだけで多くの冒険者を魅了する。そしてそこへ加わったのがエトリア統治機関による例の探索令だ。
これが辺境のいち都市にすぎないエトリアの名を大陸中へ響き渡らせることになった。多くの冒険者たちが富を、名誉を、そして何よりも未知の冒険を求めてこの地を訪れた。一時は物凄いことになったらしい。指令を出した執政院自体が探索を行う冒険者を制限したとかしないとか。当時の街はそれこそ冒険者で溢れ、夢や希望に満ち、どこへ行っても活気と熱気で賑わっていたそうだ。
「どいつも『俺が迷宮を踏破する1人目になるんだー!』ってな、もう顔つきからして違ったもんさ。こう、野心をギラつかせてるような奴ばっかでよ」
「たまにお大尽気取りでぱーっと派手に金バラまくような馬鹿とかいたし。いや、俺は好きだぜ、そういう奴」
「そりゃトラブルも絶えなかったがね。なんつっても、街自体にお祭状態なわけだから皆さほど気にしちゃいなかったな」
そう語ったのは、冒険者ギルドの責任者らしき人だった。
エトリアの街についたのは、まだ早朝といっていい時間。まっすぐ向かったのは、冒険者ギルド。冒険者ギルドという言葉には大体2つの意味がある。
1つは迷宮へ挑む者たちで作られた組織。すなわち、冒険者たちのパーティそのものであったり、それ以上の人数で役割分担をして効率よく探索を行うための系統立てられた団体。もちろん、たんなる寄合と化している集団もある。この場合は『冒険者ギルド』という言葉よりも、単に『ギルド』という言葉を使う場合が多い。各ギルドはそれぞれ固有の名称をつけ、その名で呼ばれるのが普通だ。
そして、もうひとつはその各ギルドの登録、紹介なんかを主に行っている管理組織。つまり、新たにギルドを作る場合の申請、ギルドメンバーの登録管理、ひとりでやってきた冒険者へのギルドの斡旋といった業務を行っている団体だ。これは執政院なんかとも繋がっていて、冒険者の統括や秩序立てるのに役立っている。執政院に認められていない冒険者は、迷宮へ入ることも許可されないという話だ。
未知の迷宮へ挑むのに、1人で乗り込むという様な無謀な真似はしたくない。なんといっても先人の知恵は倣うためにある。既に迷宮を探索した経験者たちがいる集まっているギルドへの紹介を頼むつもりで、ボクはその扉を叩いた。
……はずだったんだけど。
「それがどうだ。最近は新人を受け入れてくれるギルドも少なくなっちまった」
日に焼けた肌に、片眼ながら鋭い眼光。服の上からでもわかる引き締まった身体。やや荒っぽい印象の管理人は、推測するまでもなく元冒険者だろう。彼はエトリアにおける冒険者たちの現状をまるで古老の様に嘆いて見せた。正直、そんな歳には思えなかったんだけども。
「どいつもこいつも、今では目の前の小銭ばかり拾ってる、しみったれた野郎ばっかりだ」
いくつかギルドを紹介してもらい、その足で落ち着く先を決めようと思っていた。そのはずが、果てなく続きそうな愚痴話とやたらと熱い冒険者論に、満ちていたやる気はあっさりと逃亡してしまった。とにかく早く退散したいというのがその時の感想であり、
「あんたに根性があるんなら、新人だけでギルドを作るほうがいい」
……そういわれて素直にギルド登録をしてしまったボクを一体誰が責められようか。いや、責められまい(自己弁護)。
いまだにこれが何かの詐欺か罠なんじゃないか、と疑いたくなる。
新ギルドの登録申請をして1時間、いや、30分もしないうちにギルドメンバーはあっさりと集まってしまった。ソードマン、パラディン、メディック、アルケミスト、そしてレンジャーであるボクを入れての5人。迷宮へ挑むことを考えてみても、決してバランスの悪くないパーティ。
そのまま流れるように冒険者ギルドでのメンバー登録が済み、冒険に必要な装備を買い整え、執政院へ赴いて樹海探索の許可、というよりは、その為の課題ももらってきた。現在ボクは新しいギルドのマスターという肩書きをもらい、新米パーティのリーダーという立場になり、迷宮へと挑む準備が一段落したところでこの日記を書いている。
これが神の導きなのか、悪魔の罠なのか。
それはまだわからないし、ほぼ初対面のこのメンバーでどこまで行くことができるのか、というか生き延びる事ができるのかすらも覚束ない。
だけど、ずっと憧れの地だったあの場所へと遂に足を踏み入れる事ができると思うと、自然と気分が高揚してくるのを感じる。ほぼ初対面の仲間たちもどんな人間なのか、不安であると同時に期待もある。とにかく、新しい出発というのは希望に満ちているというものだ。
いざ往かん、世界樹の迷宮へ!
とはいうものの、数時間後にはこれ破り捨てたくなったりしてないといいなぁ。今朝からの怒涛の展開を考えると、ありえるよなぁ。ボクが『ギルドマスター』、だもんなぁ。
……人生って、どう転ぶか想像もつかない。
≪Draenei はじめました。
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